2018-05-13

射水・Shooting water


春の日差しを浴びて光る水面を見ていた。
目を閉じてもきらきらした残像がそこにある。

「どうしてきらきらするの?」私は聞いた。

祖母はしばらく黙っていた。
手持無沙汰の私は、その顔にこびりついた深い皺を見つめていた。

大人たちは考えることがあって黙っていることがある。
けれど、それと同じくらい考えるのが面倒になって黙っていることもある。
これがどちらの種類の沈黙か、見定めてやろうと思ったのだ。

答えが出る前に、祖母はあっさり言った。

「わかんないね」

そうして、そろそろお母さんが迎えにくるよと言って
私の手を引き、帰るよう促した。

・・・

その夜はなかなか寝付けなかった。
その夜もなかなか寝付けそうになかった。

私は上手く眠れないのだ。

そう言うと
誰もが少し笑いながらこう答える。

「目を閉じて楽しいことを考えれば自然に眠くなる」と

今夜はそれも難しそう

目を閉じると瞼の奥に
あのきらきらがちらついて
離してくれなさそうだから

あれはどこからくるのだろう?

上から降り注いでいるように見えて
そう見せかけておいて

本当は下の方から
やってくるのかもしれない。

・・・

川の水の底の下

そこにはここと似た水の町がある。

小さな町には小さな子供たちがいて
こちらを見上げている。

上空に流れる川を介して

おぼろげに見えるようで
見えない人影

さらに遠く揺れる
木々や鳥

曖昧な
雲の群れ

何があるのかわからない。
正体を知りたいわけではない。

そこに何かがあるということ
そこに届くということ
その可能性を確かめてみたい。

・・・

よく晴れた日に

小さな子供たちは
金色に塗った玩具の矢を
空に向けて一斉に放つ。

いくつもの
いくせんもの
光の矢

あわよくば命中して
形をなさない何かが
降ってこないかしら

そう願って
放たれる

いくつもの
いくせんもの

空に届く前には
消えてしまう

きらきらと
水を射る
光の矢

・・・

富山旅行に出かけたとき
射水(いみず)という地名の響きと
内川エリアの水辺の美しさに魅かれて
浮かんだ小話です。

富山には射水以外にも
氷見(ひみ)、小神(おこ)、雨潜(あめくぐり)など
想像力をかき立てられる地名が多くあるようです。